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2012/11/06(火曜) 00:31

アブドッラーと宝石

アブドッラーと宝石

アブドッラーは、自分の宝石を眺め、それを優しく撫でました。彼はそれが好きでたまりませんでした。その中に、いくつか大きな美しい真珠があり、アブドッラーは毎日、何度もそれらを袋から取り出しては眺め、再び袋にしまっていました。それがアブドッラーの毎日の日課であり、真珠がなくては息もつけないような状態でした。

アブドッラーは、それらを撫でながら、それに穴を開けてみようと思い立ちました。そうすれば、妻のために美しい首飾りを作り、プレゼントすることができます。アブドッラーは早速、真珠を袋に入れ、それらを箱にしまいました。市場に行く必要があったので、マフラーを巻き、帽子をかぶり、家を出ました。市場まではそれほど遠くないため、歩いて行くことにしました。路地を通り抜け、市場に着くと、しばらく歩き回ってから、探していた人物を見つけました。その人物とは、とても腕のよいエバードという名の若者でした。アブドッラーはエバードに100ディルハムを支払い、真珠に穴を開けてもらうことになりました。二人は一緒にアブドッラーの家に向かいました。エバードは、アブドッラーの家に入った瞬間、その壮麗さに息を呑みました。

その家はとても広く、色とりどりの花や植物が植えられた庭があり、真ん中には池がありました。広間に入ると、壁や棚には貴重な置物や絵画が飾られていました。アブドッラーはエバードに向かって言いました。「ここで待っていてください。今すぐ真珠を持ってきます」 アブドッラーはそう言うと、広間を出て行きました。エバードがなおも家の中を見回すと、部屋の隅に、美しい大きなハープが立てかけてあるのを見つけました。そこでハープに近寄り、それを優しく撫でて、弦に手をかけました。とても優しい音色が響き、広間の沈黙の中に溶けていきました。ちょうどそのとき、アブドッラーが広間に入ってきて、ハープの音色に驚き、その表情のまま、エバードに言いました。「この楽器が何だか知っているのですか?」 エバードは言いました。「はい、これはハープです」 アブドッラーは尋ねました。「あなたはハープの弾き方を知っていますか?」 エバードが知っていると言うと、アブドッラーは言いました。「それならちょうどよい。作業を始める前に、少し弾いてみていただけませんか?」

エバードがハープを弾き始めました。彼が指で弦をはじくたびに、心地よい音色が響き渡りました。アブドッラーはその音色に聞き入りました。エバードはハープを奏で、アブドッラーはその中に浸っていました。昼になりました。エバードが弾くのをやめ、ハープを脇に置こうとすると、アブドッラーが言いました。「何をしているんです?もう少し聞いていたいのです。まだ早いでしょう。もう少しの間、弾いてください」

エバードは、真珠に穴を開けることを考えていたので言いました。「でも、どうやら私がここにきた目的を忘れてしまったようですね。本来の仕事を済ませなければなりません。ずいぶん時間が経ってしまいました。このままだと作業を終わらせることができなくなるかもしれません」

真珠のことを完全に忘れていたアブドッラーは、言いました。「あなたの言うとおりです。でも夕方までにはまだ時間があります。昼食を食べてからでも間に合うでしょう。だからもう少し弾いてください。あなたは本当に素晴らしい腕を持っています」 エバードはその言葉に感謝を述べ、再び弾き始めました。アブドッラーは再び、ハープの音色に聞きほれ、時折、そのメロディーを口ずさんだりしていました。

こうして少しずつ、秋の太陽の光が弱まり、窓の外は、もう路地が見えなくなるほど暗くなっていました。真珠は手がつけられぬまま、机の上においてありました。アブドッラーはまだ、音色の中に浸っていました。エバードはハープを横に置き、立ち上がって言いました。「もうすぐ夜になってしまいます。家に帰らなければなりません。私の今日の賃金をくださいませんか?」 アブドッラーは言いました。「今日の賃金ですって? あなたは今日、何も仕事をしていません。だから私が賃金を支払わなければならない義務はありません。真珠を見てください。また明日、来てくれれば、そのときに賃金を払います」

エバードは、アブドッラーの言葉に傷つき、言いました。「私はあなたのために、ここにいたのです。朝から今まで、私にハープを弾かせたじゃありませんか。私はあなたのためにそうしたのです。真珠に穴が開いていないのは、私のせいじゃありません。あなた自身が望んだことです」 アブドッラーは彼の言葉を気にも留めずに言いました。「あなたに支払う賃金はありません。仕事をしていない人に、賃金など払えません。もし賃金がほしいのなら、ここに残って今から作業を始めればいいでしょう」

二人の議論が高まり、いつまで経っても平行線でした。そこで二人は仕方なく、判事の下に行くことにしました。エバードはそれまでのいきさつ、ハープと真珠の話を判事に話して聞かせました。判事は、彼ら二人の話を聞いてから、アブドッラーに向かって言いました。「この若い男の言い分が正しい。彼はあなたに雇われていたのから。あなたは彼にハープを弾くよう頼みました。別の仕事で雇っていたとはいえ、100ダルハムを支払うべきです。もしあなたがそんなにもハープの音色に酔いしれていなかったら、今頃、真珠に穴を開ける作業も終わっていただろうし、ここに二人で来ることもなかったでしょう。あなたは彼に、完全な賃金を支払うべきです」

アブドッラーは、判事の下した判決に従うより他、ありませんでした。そこでエバードに賃金を支払い、判事のもとを辞去しました。アブドッラーは、真珠に穴を開けていないのに、100ダルハムも失ってしまいました。そこで、自分がどんな過ちを犯したかに気づきました。アブドッラーは、路地をゆっくりと歩き、家に向かいながら考えました。「これは私の人生のようだ。自分が本来やるべきことを忘れ、遊んでばかりいれば、あっという間に人生が過ぎ、この世を去るときには、あの世に持っていくのに、価値のあるものなど何もない状態になってしまう」 

夜になっていました。アブドッラーは歩みを速めました。急いで家に帰り、真珠を宝石箱の中に戻す必要がありました・・・。

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